地球温暖化による生活環境の破壊が進んでいます。
SDGs目標#13「気候変動に具体的な対策を」という大きな目標へ、個人である私達に何か出来るでしょうか。
古くなった知識をアップデートし、将来のためにできることを考えました。
本投稿では主に以下の情報を参考にしています。
「不都合な真実」(アル・ゴア)講談社 2007(文庫版2017)
「STOP THE 温暖化2017」(環境省Webサイト~地球温暖化/気候変動)
「地球46億年気候大変動 炭素循環で読み解く地球気候の過去・現在・未来」(横山祐典)講談社 2018
「地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる」(ビル・ゲイツ)早川書房 2021
「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?」(スティーブン・E・クーニン)日経BP 2022
「IPCC AR6 WG1報告書 政策決定者向け要約(SPM)暫定訳(2022年5月12日版)」(気象庁Webサイト~IPCC第6次評価報告書)
「Breakthrough Energy ~ Working to achieve net zero emissions」 Webサイト(設立者ビルゲイツほか)
不都合な真実
地球温暖化問題にいち早く着目し啓蒙活動に献身したアメリカ元副大統領アル・ゴア氏の「不都合な真実」(映画と書籍)は世界に衝撃を与えました。(2007年にIPCCとともにノーベル平和賞を受賞)
映像を見た時、二酸化炭素濃度の急激な上昇カーブ、平均気温と海水温の上昇、氷河や棚氷の減少、砂漠化、サンゴの白化など、見たくない現実にショックでした。
アルゴア氏が語る不都合な真実とは、人間が(特に先進国が)引き起こした環境破壊のことだけではなく、その先にありました。
気候の危機に関する真実は、自分たちの暮らし方を変えなくてはならないという、「不都合な真実」なのである。
「不都合な真実」アル・ゴア(単行本286ページ)
出来れば避けたいと誰もが思っている、自分事にすること。
そして巻末では4つの行動を呼びかけていました。
- 自宅の省エネを進めよう
- 移動時の排出量を減らそう
- 消費量を減らし、もっと節約しよう
- 変化の促進役になろう
正直に言います。
私はこれを読んだ頃、目の前の仕事に忙殺され、自分に何ができるか落ち着いて考えることすら出来ていませんでした。
持続可能な発展を謳い、商品開発ではグリーン調達等の要件を確認するのも仕事だから、でした。
京都議定書で二酸化炭素(以下CO2)削減に向けた取り組みが決まったのは知っていましたが、オゾン層問題では対策努力をしたのは企業であって、私個人は対策品を使っただけです。どこか同じイメージを抱いていた気がします。
学術雑誌に発表される地球温暖化に関する論文に、温暖化の原因を疑うものがないにもかかわらず、米国の一般新聞に掲載される温暖化の記事の半数はそれを疑うものだったようです。
それから15年が経ちました。
恐ろしいことに状況はさらに悪化しています。
気候変動とは
もともと地球は誕生以来、環境の大変動を繰り返してきて現在の姿になっています。
どんな仕掛けで気候が変動し、それに人間がどう関係しているのでしょうか。
気候変動の研究史的解説で読み物としても大変面白い地球科学者の著書「地球46億年気候大変動」から、背景知識をピックアップします。
温室効果
両極の氷など明るい部分は太陽光を反射(アルベド)して地球の温度を下げる一方、海洋など暗い部分はエネルギーを吸収して温まります。温められた地球が発する赤外線はCO2等の温室効果ガスに吸収されて宇宙空間へ逃げずに保温され、結果としてバランスを保っています。
現在進行している地球温暖化は、この温室効果ガスの急激な増加でバランスが崩れて熱がこもるためで、その増加は化石燃料を使う人間活動が排出しているCO2が原因です(自然の大気に含まれる炭素同位体の比率が薄まっている測定事実による)。
大気中のCO2濃度は過去80万年間は氷期180~200ppm、間氷期280ppmで一定でしたが、産業革命以降250年で急増し2019年410ppmに達しています。
地球46億年
地球の初期は太陽が今よりも30%ほど暗かったにもかかわらず凍結せずに水が存在したことがわかっています(水中での噴出に特徴的な35億年前の枕状溶岩や深海堆積物の調査で判明)。
初期は陸地が少なく海による熱吸収が多かったこと、CO2やメタンの濃度や気圧が遥かに高かったことで温室効果により日射量不足を補ったと考えられています(これは検証中のようです)。
地球は大気組成の変化、どこにも氷床がない「温室地球」や「全球凍結」の大変動を何度か経験し、一部に氷を持ちながら気温が上下変動する現在の状態に至っています。
変動の時間軸はスケールが大きくて、ほとんどが、万年~百万年、千万年単位です。
氷期と間氷期(ミランコビッチサイクル)
天文学的要因による周期的な日射量変化が起きます。
自転軸の傾き(約4万年周期)や離心率の変化(約10万年周期)と歳差運動(約2万6千年周期)の重ね合わせで日射量が変動し、大陸が多い北半球の夏の日射量変動が影響を与えて気候変動を引き起こします。
深海底の堆積物コアの掘削とその分析から、過去100万年ではこのミランコビッチサイクルに沿って約9万年の氷期と1万年の間氷期を繰り返しています。
炭素循環によるサーモスタット効果
地球には温度が上がりすぎると冷まし、冷えすぎると温めるサーモスタットのような作用があったことが、過去の気候変動の痕跡でわかっています。
炭素循環とプレートテクトニクスによるものです。
大雑把にいえば、温暖化で水蒸気が増えて雨量が増し、大気中のCO2が大量の雨に溶けて岩石を風化させ、この時の化学反応でCO2が固体に取り込まれて海に流れ込み沈殿、大気からCO2が除去されて温度が下がり、アルベドが増す。
逆に氷に覆われても大陸移動に伴う火山活動がCO2を大気に放出し、次第に蓄積して温室効果が生まれて温度が上がる。他にも複数のメカニズムが働いています。
もちろん100万年単位の現象なので、いつか冷めるのを期待して待っていても救いにはなりません。
また、現在は間氷期の終盤に位置するそうですが、温室効果によって数万年続くとみられています。
温暖化問題のアップデート
京都議定書1997年以降、途上国は急速に経済発展を遂げて排出量も急増しており、パリ協定の頃には温室効果ガス排出量シェアは様変わりしていました。
専門家のIPCC 第6次評価報告が幅を持った5つのシナリオで将来予測をしていますが、どれも悲観的です。冒頭の紹介リンク先にある暫定日本語訳・政策決定者向け要約版が読みやすいです。
”世界平均気温は、少なくとも今世紀半ばまでは上昇を続ける。向こう数十年の間に CO2 及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21 世紀中に、1.5℃及び 2℃の地球温暖化を超える。”
”気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの多くの側面における現在の状態は、数百年から数千年の間、前例のなかったものである。”
”極端な高温、海洋熱波、大雨、及びいくつかの地域における農業及び生態学的干ばつの頻度と強度の増加、 強い熱帯低気圧の割合の増加、並びに北極域の海氷、積雪及び永久凍土の縮小・・・”
これらは、河川の氾濫・洪水や海水面上昇(住環境の破壊)、伝染病を媒介する蚊の生息域の拡大(衛生環境やインフラが乏しい貧困地域で多数の死者が出る)、農業生産への打撃(食糧危機の懸念)等々へドミノ倒しのように連鎖していくのは抗えない現実になっています。
現時点の概況は、パリ協定を踏まえて環境省が作成したパンフレット「STOP THE 温暖化2017」が良くできています。一読をお勧めします。
一方「気候変動の真実」 では温暖化の事実は受け止めつつも、IPCCの将来予測には検証不十分なモデルによるシミュレーションもあって確信度に疑問があること、危機感を煽りかねない表現がある点や、マスコミが関心を引くために必要以上に出来事に結び付けて報道している弊害への指摘もありました。
しかしそれが正論でも、予測モデルで学術論争している間にも状況は悪化していくし、マスメディアの報道姿勢を叱責してもCO2は減りません。
淡い期待は捨てて、「具体的に」厳しく取り組まなければ更に悪化することは、この15年間が証明済みではないでしょうか。
現在の取り組み
2015年の国連総会で全会一致で採択された持続可能な開発目標(SDGs)のテーマ13として「気候変動に具体的な対策を」が盛り込まれており、今や株式市場ではSDGsへの取り組みが企業評価に影響を与えるようになっています。
日常ではCO2排出が分かりやすい発電や自動車などの話題が目につきます。
欧州は内燃機関車の新車販売について2035年に事実上禁止する方針を打ち出し、日本も同調しています。
東京都では先駆けて2030年までに都内での純ガソリン車、純ディーゼル車の新車販売禁止を打ち出すなど、具体的で厳しい政策に舵が切られていますし、補助金制度によって省エネタイプの家電やEV車を促進しています。
10年使うとすれば2035年に販売をやめても2045年まで稼働するので、2050年のゼロ目標へはギリギリですが。
他にも様々な分野の取り組みがされて情報もある(環境省パンフレットにも事例掲載)のですが、どうもモヤっと感があります。
取り組み事例のボトムアップ的なので、それらが総合して目標を達成できる根拠が良く分からないのです。
事業の商品化計画でいえば、開発方針と実施例は書かれているけれど、損益目標を達成できる計画なのかどうかが読み取れない企画書を見ている感じでしょうか。
それをロジカルに提示した代表として「地球の未来のため僕が決断したこと」ビルゲイツを参照します。
世界の年間の温室効果ガス(メタンはCO2の30倍の温暖化効果をもつが濃度は低く寿命は短い)をCO2換算で510億トンと数値化し、事業者らしい課題設定・分析でブレークダウンをして、1つ1つ実現シナリオを描いています。
- 気候大災害を防ぐには510億トンをゼロにしなければならない。
- 510億トンの5つの活動をそれぞれ解決しなければならない。
- すでにある手段はもっと早く効果的に展開する必要がある。
- 目標達成を可能にするブレークスルーを生み出して市場へ展開しなければならない。
言われてようやく私も理解したのは、移動手段が全部CO2ゼロになっても全体の16%、発電が全部CO2ゼロになっても全体の27%しか減らないという現実です。
ものつくり(インフラを作る鉄鋼・セメントなど)は31%を占め、1トンの鉄鋼を作ると製造過程の化学反応で1.8トンのCO2、セメントも同様に1トン作ると1トンのCO2が生じるのも衝撃でした。
中国、インド、ナイジェリアなどの発展途上国が成長していて世界ではすさまじい建設ブームが起こっています。増えつづける都市人口を収容するために、これから40年間、ニューヨーク市の規模の街が毎月ひとつできる状況と例えています。これもなかなか衝撃的です。
課題のボリュームを前にしてCO2換算510億トン/年の温室効果ガス排出のゼロ化なんて、読むほどに絶望的な気になりました。
それでもビルゲイツは何度も「僕は可能だと確信している」と言っています。
圧倒的な知識・知力と財力、ゲイツ財団で貧困世界の何百万人もの子供たちを救ってきた実績があるとはいえ、「クリエイティブコンフィデンス」 とはこういうことを言うのでしょう。
ポリシーも明解です。
- グリーンプレミアムを指標にする
- グリーンプレミアムを下げるのは慈善事業ではない
- 公共政策からは長期視点の投資を引き出す
- 技術x市場x政策、すべてのレバーを同時に引くことで変化を起こす
既存の製品・サービスと炭素ゼロの代替手段とのコスト差をグリーンプレミアムと定義し、それをどう許容範囲にもっていくか、という考え方です。
発電分野では、化石燃料のバリューチェーンが洗練されているうえ、それが引き起こすダメージのコストが反映されていないので安価すぎる(リッターあたり炭酸飲料よりも石油の方が安い!)ため、クリーンエネルギーのグリーンプレミアムが非常に高くつきます。
化石燃料を値上げてプレミアムを下げるのは現実的でないため、代替エネルギーをどこまで安くすればよいか、どうやって下げるのか、出来ることの積み上げではなく目標からの逆算で考えて新しい着眼点を見つけていくのが凄い。
そこで、核廃棄物をほとんど出さない次世代の原子力発電所の設計や、太陽光や風力発電など技術は既にあっても安定供給できない課題を補う蓄電のイノベーションなどに投資しています。
発電の進展は、ものつくり工程の変革など、他の領域の課題への貢献が大きいため発電を最優先にして取り組まれていますが、他の領域も網羅していて圧倒されます。
ものをつくり:排出ゼロでグリーンプレミアムの低い製造方法、少ない材料で強度が強い資材のイノベーションなど。
ものを育てる:農業収穫を増やす、牛のメタンを低減する、代替肉のプレミアムを下げるイノベーションなど。
移動する:車のバッテリー、次世代バイオ燃料、ジェット燃料の代替燃料のイノベーションなど。
冷やしたり暖めたりする:化石燃料の暖房(米国の暖房の半分はガス)の電化や省エネへの取り組みなど。
各領域で必要なイノベーションの探索、技術と市場と政策をどう噛み合わせて普及させるかに言及していますが、全体を貫く以下の2点が強く印象に残りました。
世界が払うグリーンプレミアムを下げるのは慈善事業ではない
仮に豊かな国がいま奇跡的にゼロを達成しても、ほかの国の排出量はどんどん増えていく。 エネルギー需要を減らすのに多額の費用をかけるより、排出ゼロへと向かうほうがよほど大きな成果を得られる。 必要なのは、気候変動を悪化させることなく低所得者が経済発展のはしごを上れるようにすることだ。炭素ゼロの企業や産業をつくった国が、この先数十年の世界経済を牽引するからこそ取り組む価値があるのだ。
技術x市場x政策、すべてのレバーを同時に引く
エネルギーでもソフトウェアでもどんな仕事でも、技術だけの問題としてイノベーションを考えるのはまちがっている。
イノベーションは新しい機械や工程を考えることだけではない。
新しい発明品のことであるのと同時に、物事の新しいやり方のことでもある。
新しい発明に命を吹きこんで世界規模で展開するのを手助けするビジネス・モデル、サプライ・チェーン、市場、政策の新手法を考えることだ。
私達にできること
ビルゲイツもアルゴアとほぼ同じ呼びかけをしています。
公共機関(連邦政府、州政府、地方自治体、市議会や自治体の関連機関)へは、民間企業では負担できない長いリードタイムを要すイノベーションへの資金支援、イノベーターや投資家あるいは利用者にとってもインセンティブが働く政策を求めています。
(規制緩和であったり場合によっては強化、税制優遇や補助金などですね。省エネ家電や自動車のような。)
企業に対しては、低炭素ソリューションにつながるイノベーションを優先する、あるいは早期導入者になることによって市場形成を支援し、グリーンプレミアムが下がるような取り組み、を求めています。
インターナルカーボンプライシング(社内で炭素価格を設定して投資判断の基準としたり業績評価に取り入れる)制度の導入も1つに挙げています。
※インターナルカーボンプライシング(環境省資料)
個人に対しては、市民としての声と投票権を使って政治家の背中を押す、消費者としてグリーンプレミアムを払う意思があるというシグナルを市場に送り、投資家や企業にゼロ達成に向けたインセンティブをつけよう。
家庭では、クリーンな電力を選ぶ、省エネルギー家電を選ぶ、リサイクル製品を選ぶ、EVを選ぶ、代替肉を受け入れる、等々を挙げています。
一般論では賛成していても、いざ自分の行動に反映するのは悩みを伴います。
実は今週、居間の古いエアコンが壊れて交換しました。ケーズデンキで見た同等品と最新省エネ品では定格電力で1.5倍以上の効率差があるれど値段も倍近いのです・・・どっちにするか妻と悩み、結局、省エネ品を選びました。
グリーンプレミアムを払うことで事業者へシグナルを送りました。省エネ品に力をいれろと。
車も十数年乗っているガソリン車が故障がちになってきて思案していますが、次の買い替え時は「EVを検討」ではなく「EVの中から選ぶ」ことにします。
購買行動以外で気付いた観点です。
企業人なら:
SDGsに取り組む企業は多いですし、前職場ではインターナルカーボンプライシングが採用されたと聞きました。
ビルゲイツのような観点を持てば、事業活動として成果を出しつつ個人の力ではできない貢献が、企業を通じて可能です。
これは素晴らしい機会だと思います。
個人として:
官公庁の温暖化問題にかかわるWebサイト(上記紹介リンク等)を見ましょう、広めましょう。
大勢が盛んにアクセスすれば人々の関心が高いことを政策側へフィードバックできます。
他にも探せばタッチポイントがありそうです。
ビルゲイツが薦めるように質問を送るのも分かりやすいストロークですが、ハードル感はあります。
たとえクリック数回でも一票同様にダイレクトな意思表示ではないでしょうか。
私はじめ多くの個人には、気候変動対策につながるイノベーションに直接貢献するのは難しいです。
しかし上記で見たように、誰かがイノベーションだけで解決することはできなくて、「私達にできること」をすることで、政策が動き、イノベーターや投資家にインセンティブが働き、市場が回り出して企業が競い、生活が変わって課題が解決していきます。
そんな生態系の中に自分も組み込まれていることを改めて認識することができました。
私達にできることは、思ってたよりはあるようです!
余談:
世界の家庭のエアコン普及率データをみて驚きました。
日本では家でも夏冬エアコンを使うのが当たり前の感覚ですが、そうでない国が実は多いのですね。
これでは、欧州でさえ熱波が来たら、熱中症で人が倒れるわけです。
以上