デジタル一眼カメラの未来をChatGPTに尋ねてわかったこと

画像生成AIの狂騒がひと段落して今度は対話型AIのChatGPTが話題沸騰です。
事業戦略のような難題を考える上でAIはコンサルとして役立ってくれるでしょうか?

ChatGPTの盛り上がり

OpenAIが開発してきたGPTの応用形として2022年末にChatGPTが一般公開されて、Web上では日々話題が飛び交っています。
最初の質問で返してくる回答のもっともらしさと完成度、文脈を引き継いで対話できることで回答を補正していく賢さ等、驚きです。膨大な過去知識をベースに、仕掛けに則って最適値を出力しているので「考えている訳ではない」のに知性を感じてしまいます。
そもそも、我々人間の方も、日々の会話や行動の多くは本当に考えているのかと言えば、実はそうでもなくてファスト&スロー(D.カーネマン)でいうシステム1で自動応答しています。
知っていることを答えるだけで自分の意志や洞察のない会話は早晩AIに代替されそうですね。
シンギュラリティーの一部はもう訪れているのかもしれません。

ChatGPTは色んなジャンルの質問に答えてくれます。
「月面で人間が生活するにはどんな危険があるか」を問えば、天候、空気、重力、放射線、食料の5点を挙げてくるので更に問うことで勉強になります。
「バッハとベートーベンの音楽にどんな違いがあるか」から始めて、技巧の違い、音楽の特徴、聴衆の感情の違いなど、普通のクラシック音楽ファンのように会話できます。
リベラルアーツは万能な感じです。

さて、話し相手にしてみたり、粗探しをして面白がるのも良いですが、ビジネスパーソンにとっては仕事に役立つかが気になります。
かつて自分が商品開発で苦しんだテーマについてAIは気付きをもたらしてくれるだろうか?
それを振り返って試してみることで、当面どんな有用性があるのか考えてみました。
(ChatGPTリリース時の学習対象が2021年まで、私が退職したのも2021年なのでちょうど良い)

コーディングを手伝ってもらう

実のところまず最初に私の役に立ったのは、実験ソフトを作るときにGPTにサンプルコードを出してもらうことでした。
目的に必要なAPIを個別に調べる必要があり、逆引きリファレンスの代わりにGoogle検索し、APIの目星がついたらAPIリファレンスを検索するなど、これまでは少々手間でした。
AIはOSS(オープンソース)の膨大な知識を使って知りたいポイントを一発で入れてくるうえ、前後のロジックも記述したサンプルコードを出してきます。そのままコピペでは使えませんが、経験者ならそれをベースに作業が大変楽になります。
スニペットを動かしてみた程度のWeb記事が無数にあるのですが、ほとんど無意味になる(検索されるニーズが無くなる)と思いました。

世の中にすでに答えがあって自分だけ知らないことは検索する前にAIに聞く方が効率良い。
ある程度の知見がないと重要なキーワードが想起できず的確に検索できませんが、課題が明確なら、AIの回答によって深堀すべきキーワードが提供されるので話が早いです。

日々の業務効率化から事業での意思決定の支援までレベルは様々ですが、前者向きのずば抜けたアシスト力はサンプルコードの例も含めて既に多くの方々が書かれている通りです。
「効率改善のため上司に Google apps の導入を求める提案書の粗筋を考えて」みたいな要求にも、なるほどと思う案を出してくれました。
業務レポートを素早く端的にまとめるのに新人とベテランの差がつかなくなり、ビジネス知識も先輩社員に聞くよりAIに聞くのが早くなってしまうと、社内スキルばかり長じた古参社員たちはうかうかして居られなくなりますねぇ・・・

ビジネスの課題を問う

今は様々なビジネスブログや書評サイトがあり、本の要約の動画などもあります。
頑張って本を読まなくても一見効率よく読んだ気になれます。しかしタイパ重視で浅く理解はできても、時間をかけて考え抜かねば自分が直面している「なぜ」に答えることはできません。
ChatGPTのようなAIがそれを補うでしょうか?

「イノベーションのジレンマに陥って失敗した企業の事例を教えて」から始めて、数珠つなぎにChatGPTに聞いていきます。

「成功していた企業は資金も人材も豊富なのに、なぜイノベーションに対応できないのですか?」
 → いくつかの要因が挙げられる。そこでその1つについて問う。
「成功している企業の意思決定や対応のスピードが遅いのはなぜですか?」
 → その要因の1つに組織の問題点を挙げてくるので、さらに対策を聞いていきます。
「大企業がイノベーションに対応できる組織になるには、どのような改革が必要ですか?」
「保守的な中間管理職が多い組織で、新しいアイディアを実現させるには、どのような取り組みが有効ですか?」
「新しい事業を生み出す上で、大企業とスタートアップがそれぞれ有利な点と不利な点は何でしょうか?」
 ・・・
どれも本に書いてあるような模範回答を返してくれます。
(わかっていても出来ないことが問題なのだけど、それは置いておく)

固有名詞を入れて少し条件を狭めて聞いてみます。
「写真やカメラの大企業だったKODAK社はなぜ事業転換できなかったのか?」
「アナログ時代の音楽プレーヤーで成功したSONYはなぜデジタル音楽プレーヤーで負けたのか?」
 ・・・
にも答えてくれますが、一般論よりもちょっと切れ味は鈍る感じです。

回答は要約されていて浅く感じますが、重ねて問うことで深堀ることができます。
意外性のある新しい洞察が出てくるのを少し期待していたのですが、それはまだ無理のようですね。
いずれも納得感のある内容ですが、ビジネス本が教える定説の範囲内でした。
とはいえ、時間をかけて何冊も読んで学びと経験で得た内容をだれでも一瞬で得られてしまうのは、なかなか残酷なゲームチェンジャーではないでしょうか。
ビジネス本のエッセンスを小出しにするだけの解説サイトも要らなくなったと思います。

こうなると勉強するより「問う」力の方が大事かもしれない。
過去に解があればAIが見つけてくれる。
人間がすべきは、問題を理解し、問うこと、そして行動し新しい知見をAIにフィードバックすること、になっていきそうです。
但し、問題を理解するには学びが必要ですが。

難しい問いを投げる

では表題のテーマを聞いてみましょう。
AIは忖度しないので、自分自身では抵抗感があって表現しづらいことも言語化してくれます。

「スマートフォンのカメラの高性能化により小型デジタルカメラが駆逐された。高性能なレンズ交換型カメラは今後どのように生き残る可能性があるか?」

  • 高画質な撮影ができる、交換レンズで様々なシチュエーションやニーズに対応できる、という利点からプロフェッショナルな撮影や映像制作の市場は残るだろう。
  • 高額かつ持ち歩きも不便であるため、特定ニーズやプロ写真家にしか使われなくなるかもしれない。

と言っています。
もっと厳しいことを言われるかと思ったら、当事者が議論してきたことと大差ありませんでした。

ただ・・・市場は残るとしても、現存するメーカー各社にとって有益な事業であり続けるかは全く別の話であり、写真フィルムが1社になってしまったように10年後は1社しか作っていない(でも利益は出ている)みたいになっている可能性はある。10年後に、それまで起きたことを学習したAIに、同じ質問をしたらはたしてどう答えているでしょうか・・・

「デジタルカメラで成功したメーカーが、市場の縮小に対応して事業転換するとしたら、どのような市場分野、製品が適していますか?」

ごもっともだけどありふれた回答。当事者はさらに深掘る必要がありますよね。

以前ブログエントリで書いた2つのテーマに関しても聞いてみました。
(参考:「インスタグラムはなぜ写真カメラ業界から生まれなかったか」)

自動でこの分析が出ることには本当に驚きます。でもまだ浅いです。

「市場シェア争いが激しい商品ジャンルで、製品の販売開始からの累積販売数が対数曲線を描いて頭打ちになる現象がありました。どうしてそうなると考えられますか?」
(参考:「データが示す驚きのコンデジ販売予測が教えてくれたこと」)

製品ライフサイクルの終盤で「購買行動の減退」という現象が顕著になると言い当てています。
さらにその減退を定量的に表す法則を聞くと以下が提示されたのには驚きました。

ビジネス本かなり読んでいる方だと思うのですが、ベセスダの法則?は記憶にありませんでした。
ただ、”bethesda”を調べても薬学系の情報ばかりで根拠の文献もトレースができていません。
(コトラーの著書も何冊か読んでるですけどね・・・)

AIはコンサルできるか

自分らが何年も考え続けた問いにどう答えるかでAIのコンサル力を試してきました。
サンプルコードを書かせて大変助かるがそのままは使えないのと同じことがビジネス課題についても言えます。
ビジネス判断の材料を集める、ケーススタディに基づくオーソドックスな分析をまず行う、まではAIが大変有効に機能します。それを使って深堀し、対象に固有の条件や新しい要因をつけ加えて、人間が考える部分がまだまだ大きいです。
つまり、今の段階では
「まだチャットはコンサルではないが、間違いなく強力なアシストツールになりつつある」
という状況です。

一応、ChatGPT自身にも自己評価を聞いています。

「事業戦略に関する相談に対して、AIはコンサルタント会社の代わりに活躍できますか?あるいは、どういう点がAIにとっての苦手領域ですか?」

「人間が過去のビジネス事例から法則性などを時間をかけて学ぶよりも、AIに聞く方が早く知見が得られるようになると、人間はどんな能力を大事にして強化すべきですか?」

創造力、コミュニケーション能力、組織能力、リーダーシップを挙げています。
ツッコミどころが色々ありますが・・・今日のところは騙されておきましょう。

今後の付き合い方

ChatGPTが、ウソっぽい情報や、明らかな間違いを返すこともあって、警戒する人たちもいます。
ですが人間はどうなのでしょうか。
コンサル会社の提案資料、上司の方針、部下のレポートなど、いままで人間が書いたものは全部信用して良いのでしょうか?
自分で勉強して調べて書いたものも、後で見れば間違っていることも普通にあります。
勘違いやミス、意図的な誘導や隠蔽などが混在しながらも、現実は回っています。
前向きにツールを活用していくべきです。
まだ創発的なことは苦手と言っているが、イノベーションが新結合ならば、人間が無駄だと思って検討しないような組み合わせも網羅的に評価して新しい価値を見つけるようになっていくはずです。

AIと人間を分かつ特性はなんだろうかと考えたのですが、結局、いまあるAIをみて人間の強みがどうこう言ってもすぐに陳腐化していきます。
決めつけず、進化するテクノロジーを使いこなす柔軟性を持ち続けることが生存戦略として大事なように思います。

以上


「申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。」カレン・フェラン著(大和書房2014年)

経営コンサルタントがかつて関わった事業改革等を振り返り、手本だった企業の半数は凋落しておりコンサルがツールとして使う過去のベストプラクティスを当てはめても成功しないこと、コンサルが作る見栄えの良い資料や誤った将来予測で判断して失敗すること、コンサルが独自に拡張した分析ツールの有用性への疑惑等々がカミングアウトされている。

重要なのはコンサル任せにせず顧客企業自身が自分で考えること、方法論やツールではなくコミュニケーション、などの指摘は、知能労働の典型とも思えたコンサルこそ早々にAIに奪われる職業なのではと思えてくる。

少し前の本ですが、今読み返してみるとAIの活用と限界について示唆に富んでいると思いました。

「ストーリーとしての競争戦略」楠木健著(Hitotsubashi Business Review Books, 2013)

戦略本のバイブルとして目立つのは米国の大学の先生の本ばかりの中にあって日本人著者のものでは数少ない正統派の名著だと思います。

ストーリーの5C、戦略ストーリーの「骨法10カ条」などのフレームワークも納得なのですが、最初は欠点に思えた要素への蓄積が実は成長について他社が追いつけない要因になっていく(競争の意思の不在を突いた強み)など、本のタイトルどおり、複数の打ち手が時系列によって戦略として機能していく様をストーリーとして捉えるのがとにかく面白かった。

「過去の成功事例から導出される万能の公式・一般解のようなものはなく、形式的に真似ても再現性はない、成功した戦略はその時代と環境その企業固有の文脈に織り込まれた特殊解なのだ」的なことが書いてあったのを思い出し、この本を引用しました。
今回、一般解をみつけてくるAIの助けを借りて固有の条件を人間が洞察して考える、という点で通じるものがある気がしました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です