撮影履歴は生活の軌跡そのものだった

写真をいつどれだけ撮ったか、シャッター回数の遷移は個人の生活の軌跡を映し出します。
来年に向けて一年を振り返る年の瀬に、20年分の写真データで振り返ってみました。

写真をいつどれだけ撮っているのか

あなたが一年の中で一番写真を撮るのはいつでしょうか?
最も写真を撮る時間帯は何時でしょう?
自分のことでありながら、案外気付いていないことがあるものです。

デジタルカメラの商品化に携わる中で、気になりつつ長年先送りしてきた疑問がありました。

「写真をいつどれだけ撮ったか、それだけで個人の生活の軌跡がわかるのではないか?」

仕事柄、早い時期から写真をデジタル化できたので個人的に20年以上のデータが溜まっています。
サンプルとしては十分。そろそろ振り返ってもよい頃です。

写真用ストレージにある2001年から2022年までの生活写真の撮影日時情報だけ(画像の中身は見ない)を収集するツールを作り、22年分の「いつどれだけ撮ったか」をいくつかの切り口で振り返ってみました。
その結果、確かに撮影履歴は生活の軌跡を映し出していました。
どんなことが分かるのか、得られた気付きをご紹介したいと思います。

なお、集計に当たって動画や仕事絡みでの撮影など対象外にしたデータセットがあります。
また、ラフな集計なので厳密性に欠ける点、個人情報なので伏せている点などありますのでご了承ください。

単純なサマリーで見る

2001~2022(今年12月半ばまで)のサマリーはこうでした。

  • 撮影枚数: 合計53,767枚、平均 2443枚/年
  • 撮影日数: 合計 2370日、平均107日/年
  • 1回の平均撮影枚数 15枚
  • 撮影枚数が200枚を超えた日 26回

ふーん・・・案外少ないのかな、という感じ。
毎年の撮影枚数の変化、および、撮影日数の変化はこんな感じです。

2001~2022年の撮影枚数の遷移
2001~2022年の撮影日数の遷移

2020年が衝撃的です。
コロナ禍でここまで落ち込んでいたとは思っていませんでした。
これが現実ですね・・・皆さんは如何でしょうか?

他にも、前年から大きく落ち込んでいる場所が途中にありますね。
2007年、2017年 です。(フィルムを併用していた最初の頃は絶対数が少ないです)

2007~2010年は異動で六本木までの長距離通勤と激務で疲弊していた時期。
2017年は前立腺がん手術で入退院あった後でアクティビティが下がっていました。
生活の好不調があまりに正直に数字に出ていることに呆れます。

心身とも生活に「余裕」がないと写真は撮らなくなってしまうのかもしれません。

曜日と撮影時刻の関係

生活パターンが曜日と撮影時刻の関係にも反映しています。
横軸が時刻で、縦軸は枚数です。
(図間の撮影数を揃えていないので同一グラフ内での曜日の相対差を見てください)

2000年代の数年間を見ると、子供が小さかった頃は土日の昼間の撮影量が多いです。(左)
一方、職場が大宮へ移転して飲む機会が増えた2010年代は金曜夜にゴキゲンに撮りまくっています(笑)

入退院があって以降に健康に気を使って大人しくなった2年間(左)と、退職後の2年(右)の比較です。

退職後は曜日に関係なく昼間に撮っていて、生活が一変したことが現れています。

現役時代の曜日毎の撮影機会・枚数のサマリーは金土日に集中していますが、時期を区切ってみることで生活の変化が浮き彫りになります。

ちなみに、週末の飲みでは夜中の0時をまたいで撮っていた自覚があって、PC保存時に自分用のファイルリネームプログラムを使っています。
写真のファイル名に年月日を付けている人は多いと思いますが、私の場合たとえば
23時59分が、”2022_0101_2359.JPG” だとすると、3分後に撮った写真は、翌日の “2022_0102_0002.JPG” ではなくて、同日の “2022_0101_2402.JPG” になるように一括で「みなし前日」とするカスタム仕様なんです。
で、午前何時までを前日に見なすか、はエイヤで決めた仕様でしたが、今回ちゃんとデータで見てみると、間違ってたな・・・というのもありました。(思った以上に夜更かしでした)

外れ値の意味

親類や友人の結婚式など、自分の日常生活ではない突出した撮影枚数がある撮影日があります。
外れ値があると普段の数字の変化が相対的に埋もれてしまうので、今回の集計では上限値を設定してキャップをはめました。
上限設定前の状態での撮影枚数に対する頻度が以下です。
殆どが100枚以下で、200枚以上撮った26回というのは特殊な事情だとわかります。
(家族旅行も枚数が多いですが、時間情報を併用すれば分離できそうです。)

「特別な日」の存在

月別、週次別での毎年の撮影量を重ね書きすると、毎年繰り返し撮っている時期がいくつかあります。

もし毎年同じ日に撮っているとしたら、それは特別な意味がある日の可能性が高いですよね。
誕生日、記念日とか。

そこで、1月1日から12月31日まで、22年間でどれくらい同じ日に撮っているかを見ます。
横軸が年数。縦軸はその年数だけ同じ日にとっている日の合計です。つまり

横軸の “1” は、22年間で一度しか撮っていない月日が何パターンあるか?
横軸の “22” は、22年間ずっと同じ日に撮っている月日が何パターンあるか?

面白いのは、ふだん何月何日かを意識して撮ることは少ないけれど、いかにもな分布になること。
22年間必ず撮っている月日が1つだけあることがわかります。

そう、元旦です!

21年間必ず撮っている月日も1つあります。いつだと思いますか?

このデータの22年目は今年の12月前半までのデータでした。
12月後半でまだ来ていない日の中に答えがあります。

それは大晦日ではなく、クリスマスでした。
それほど撮っている意識はなかったので自分でも意外でした。

分布の右側から積分値の3パーセントで切ると14~15年あたりに該当します。
14年以上同じ日に撮っているのは特別な日といえますし、実際に写真を見るとほぼその通りです。
数少ない特別な日に着目すれば、その家族の誕生日や記念日が(写真の中身を見ずに!)分かってしまうんですね。但し、祝日と重なっていると難しくなりますが・・・

また、子供が進学するときは卒業シーズンと入学シーズンがセットで撮影枚数の多い年になります。
毎年桜の写真を撮ったとしても他の条件と組み合わせると確度が上がるでしょう。
6年3年3年の周期が複数あれば、少なくとも二人以上の子供がいそうです。

撮影履歴は生活の軌跡そのもの

入手できる範囲として今回は自分のデータしか見ていません。
職業や環境、生活習慣は多様ですから、N=1 で多くを語るのは乱暴です。
しかし「写真をいつどれだけ撮っているのか」を調べるだけでも色々と見えてくるものがありました。
例えばリストバンドを着けてヘルスケアをする様に、カメラの利用状況は人のメンタルケアのセンサーにもなり得るかもしれません。

自分が健全な生活パターンになっているか、今後は撮影履歴からも時々振返ってみようと思います。
写真のもつ力を改めて感じますし、誰かが写真で自分を振り返ってみるヒントになれば幸いです。

余談:この課題の背景

画像の附帯情報について

スマートフォンで撮影した写真には「画像」だけでなくGPSによる位置情報など他の情報も含まれることが広く知られるようになりました。
画像ファイルの中に様々な関連情報を内包記録する方式は、デジタルカメラの誕生によって一般化しました。
フィルムカメラ時代は1枚1枚の写真をいつどんな設定で撮ったか、撮った本人も現像・プリントサービス側も知る方法がありませんでした。プロ用の機材にはフィルムの一部に情報を写し込むものがありましたが、一般の写真では、日付の焼き込みがせいぜいでした。
撮影が難しかったリバーサルフィルムで上達するため、あとで突き合わせるように撮影情報をメモしながら撮るなど苦労したものです。

デジタル化すると画像はデータになり自由にファイルに記録できます。
機器やサービスの互換性を保つためにExif規格が作られ、デジタルカメラでは写真の画像データファイルの中に、撮影時の様々な情報を「タグ」という形で保存するようになりました。
その後何度か規格拡張を経ながらスマートフォンのカメラ機能にも引き継がれて現在に至っています。

ファイルのタイムスタンプは、コピーや一部修正などで変わってしまいますが、タグに書かれた撮影日時は残ります。
今回の集計では、このタグの撮影日時を使っています。

なぜ撮影日時なのか

コンデジがピークを過ぎた頃、自分の写真データを整理していて、データ量が年によってかなり増減している事に気付いていました。忙しくて疲弊していた頃は明らかに写真を撮っていない感触があったんです。
デジタルカメラで顔検出オートフォーカスが実現した2006年以降、やがては画像の中身を自動認識する進化が予想されました。しかし写真はプライベートな情報であり、利便性と引き換えに中身を全部見られることには抵抗があります。
画像認識で中身を見なくても「写真をいつどれだけ撮ったか」、その情報だけを追うだけでも、その人のメンタルの波が把握できてなにか生活を改善するような価値のある提案ができるんではないか?
ずっと、それが気になりつつ、掘り起こす機会を作れませんでした・・・

昨今はAIの画像認識で人物の年齢性別を推定したり、数種類の表情まで見分ける様になりましたが、写真の中身を見ずに付帯情報だけで理解する最小限の情報がシャッターを押した撮影日時でした。

意識しておきたいこと

スマホがキャズム越えした2012年から既に10年経ちます。
人々がほとんどスマホで撮ってクラウドに写真を置くようになった今、画像の中身も附帯情報もすべてビッグテックは握っています。
Googleフォト、iCloud、OneDrive 等々、蓄積された膨大な事例データで学習して写真を分類しています。中身を見ても見なくても私たちのライフサイクルは把握され利用されています。
便利になった裏側では自分の無意識なファクトさえも見抜かれている、それを分かったうえで利用していく必要があるでしょう。

OneDrive の自動分類機能
Googleフォトの振り返り機能

以上


データがもたらす洞察についての洞察につながる参考本。
ビッグデータ・AIの潮流が加速しているからこそ、いい事ばかりではなく嫌な面についても理解を深めておく必要性を痛感します。

誰もが嘘をついている~ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性/セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ(著)
(2018 光文社未来ライブラリー)

元グーグルのデータサイエンティスト著。
検索履歴の分析から人の本音と建て前の違いが分かってしまう。
本人ですら気付かないバイアスも見抜くデータの怖さと、その情報を無意識に提供し続けていることへの認識が深まります。
分かりやすく赤裸々な事例に引き込まれてしまいます。

あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠 /キャシー・オニール (著) 2018

ビッグデータがバイアスを内包していれば、それを学習したAIもバイアスを内包する。恐ろしいのはそれを認識することなく過度にAIの利便性を信じてしまうこと。
信じられない様な実例をもとに、データ分析の強力さゆえの過信・拡大適用へ戒めを説いています。

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