ちょっとした確認から、重要会議での質疑応答まで、
職場でたくさんの問いに答え、或いは問いを発してきました。
多くの場合、知りたい事を得るためのものですが、質問には様々な意図があります。
最近読んだ本で「問い」のもつ力を再認識し、もっと効果的な問いを発することが出来ていたら、より生産性の高い働き方が出来たのではないかと思うところがあります。
そんな「問い」の力について。
子供からのインタビュー
娘が小学生のころ、お父さんインタビューというのを受けました。
学校から出された宿題で、父親に聞いて書いていくものがあるのだという。
十数年前のデジカメ市場の最盛期、私が薄型コンパクトデジカメの商品企画課長の頃です。
休日の夕食後に娘がノートをもってきました。
娘「じゃあお願いします。まず1つめ。どんなお仕事ですか。」
世界中のお客さんに向けて、楽しく使い易いデジカメを考えて新製品をつくる仕事、みたいな回答だったと思います。
娘「次。どうしてその仕事を選んだのですか。」
私「え?」 これは結構手強いインタビューなのではないか? 私は直感しました。
しばし沈黙後に私「ちょっとまって。あとほかにどんな質問があるの?」と聞くと、全部で5問でした。
(ちょっと記憶が曖昧ですがこういう骨子だったと思う)
- どんな(何の)お仕事ですか?
- どうしてその仕事を選んだのですか?
- その仕事でいままで一番うれしかったことはなんですか?
- その仕事でいままで一番つらかったことはなんですか?
- これからの抱負について。
「うんわかった。ちょっと考えとくから、30分経ったらまた来てくれる?」と言って時間を取りました。
1.は事実を答えるだけなので、分かりやすく言う工夫は必要ですが、あまり考える余地はありません。
しかし、それ以降はなかなか恐ろしい問いだと思いました。
企業人であれば業界・職種は希望して就職したとしても、実際に今自分がやっている仕事を、自分で自由に選べたわけではない人がほとんどなはずです。
それでも、なぜ「選んだのか?」と主体的な選択の理由を聞いてきます。
仲間には人事異動を愚痴ったりできても、子供にそう聞かれたら思わず胸に手を当てるのではないでしょうか。
いやなら辞めれば良いわけで、取り組んでいる以上、その道を自分は「選択したのだ」と気付かされます。
3.~4.も自分事であって初めて自分の思いを語れるのであり、5.に至っては、職場の業務目標ではなく、お前はどこを目指しているんだ?と聞いています。
この宿題の狙いはなんでしょうか?
親との対話を足掛かりに、社会について教える授業の一環でしょう。
しかし、子供だけでなく親にも内省を促すパワーがあることにとても驚きました。
30分後に一通り回答した後で、当時あまりの忙しさに追われて、自分は何か見失っているのではないかと、しばらく一人で考えてしまいました。
ちなみに、Whyの回答では(今となっては古いかもしれませんが)自分が好きで&得意で&貢献出来る事、というよくある3つの集合のベン図(やりがい)を説明した覚えがあります。
戦略質問・10のセントラルクエスチョン
「戦略質問~短時間だからこそ優れた打ち手がひらめく 東洋経済新聞社」(金巻龍一:元日本IBM常務取締役IBM戦略コンサルティンググループ他)によると、多くの企業の戦略策定において
- コンサルと何ヶ月もかけて策定する戦略の80%は最初の40分の議論で見えている
- 膨大な資料を作成しても結局議論されるのはエクゼクティブサマリーだけである
といいます。いかにロスが多いことか。
そこで、短時間で会社の戦略を浮かび上がらせトップにその決断をうながすツールとして、(質問者が答えを知るためにおこなう質問ではなく)考えさせる質問を用いています。
この本の中で「子供からの、仕事に対する無邪気な質問にどう答えるべきか」迷う体験の話がでてきます(p.52)。
子供や家族の質問は、単に答えを求めて聞いているとしても、それがいつもと違う視点であるため、答える側が「考える」きっかけになると指摘しています。(確かに!)
著者のコンサルでは、この効果を狙って「非日常な質問」により経営者の自問自答のきっかけをつくり思いを引き出す「10のセントラルクエスチョン」を設計されています。
例えば下記のようなもの。刺さります。
Q3 もし、あなたの会社が、今、突如この世から消えたら、誰が悲しむでしょうか?
Q4 あなたの会社や事業が、このままの状態だとした場合、その「X-Day(終焉)」はいつ頃来ますか?
Q5 あなたの会社は新しい戦略を策定されましたが、それにより、どこが弱くなりましたか?
Q9 あなたの会社の社員が他の会社に移られた場合、その方々は大活躍する予感がありますか?
このように「問う」ことで、調べればわかることや決めたことではなく、考えや洞察が問われるし、場合によってはそれが欠けていることに気付いてしまう。
ダニエル・カーネマンのファースト&スローでいえば、反射で回答できる問いではなく、思考を必要とする形に問う、ということでしょうか。
そういう「問い」を駆使出来れば、無駄な問答に費やす時間を、上質な思考時間に変えられます。
10問以外にも面白い問いがあります。
・その中期計画は、目標ありきか、構想ありきか?
・その戦略は既存顧客(市場)の深堀りか?新市場への展開か?
・社会が求める商品やサービスの開発にイノベーションを向けるのか、社会が必要としない商品やサービスをいかに押し売りするかにイノベーションを向けるのか?
・戦略実現に向けての最大の「ミッシングパーツ」は何か?(裏を返せばそれがあればできるのか)
・人材の価値は「社内の相対評価」なのか「市場価値」なのか?
著者が携わったオーディオ業界で自分たちの音質こそが「コアコンピテンシー」だと考え、デジタル音源の登場にかかわらず「原音再生」にこだわりつづけて事業が悪化していった経験も語られていて親近感を持ちました。業績が悪くなってきたとき、即座に挽回策を考えず、その事業の存在意義に終焉が来ているのではないか(ミッションが期限切れになっているのではないか)と疑うことも新しい戦略発想に必要だとも述べています。全く同感です。
役に立つ「問い」
逆張りの起業家として有名なピーターティール氏の「ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか」が2014年に話題になりました。
若い起業家に向けた投資プログラムの応募には「ティールの7つの質問」があり、最も重視する質問は、隠れた真実への洞察を問うています。
「世界に関する命題のうち、多くの人が真でないとしているが、君が真だと考えているものは何か?」
時代遅れの「常識」は振り返って初めていいかげんで間違っていたことがわかる、なによりの逆張りは自分の頭で考えることだと。
「問い」の形をした強烈なメッセージとして印象に残ります。
また、「問いこそが答えだ!~正しく問う力が仕事と人生の視界を開く~」(ハル・グレガーセン)では、マークベニオフ氏(セールスフォース)らがステージゲートで立ち返る問い(目標・意義・手法・障壁・評価基準)があるそうです。
- 自分たちがほんとうにしたいことは何か
- 自分たちにとってほんとうに重要なことは何か
- どのようにそれを実現するのか
- その実現を阻むものはなにか
- 実現したかどうかは何によって判断するのか
「問い」の形をしたフレームワークとも言えます。
問うことを利用して深く考える手法は、他人に対しても自分に対しても、効果があるようです。
不毛な「問い」
一方で、日々の仕事の現場では不毛な問いが溢れています。
議論の目的には直接影響ないような些末な数字を確認する人、
物事の問題点を指摘することで自分の優秀さをアピールする人、
聞くまでもないことを自分の存在証明のために質問する人、
質問の体裁をとりながら自分の主張を述べるだけの人・・・
会議では多くの人がリスクを負う提案よりも、無難な質問ばかりします。
私自身も反省するところ多いです。
重要な会議で方針が間違っていると思う時、すぐに異論や反対理由を言うのではなく、相手がその結論の問題点に自分で気付くような質問が出来たら良かったのに。
代案に気付いたとき、すぐにそれをぶつけずに、相手もそれに気づくような質問が出来たら、もっと短時間で合意できたのに。
そういう質問が上手な人が時々いて自分も参考にしようと何度も思ったのに。等々。
いきなり事例のような「問い」を持ち込んでも抵抗があるかもしれません。
しかし、最短でベストな解を見つけるための質疑応答のはずです。
不毛な「問い」を慎み、役に立つ「問い」を推奨する風土づくりはとても有益ではないでしょうか。
改めて自分に問う
既に私の子供二人は就職して家を離れており、私は定年での再雇用を選ばず、自分のリソースは自分が自由に使える道を選びました。
今は、自分が決めない限り何も決まらないし、自分が動かないかぎり何も始まらない。
このブログも含めていろいろ試行錯誤をしながら、迷いや妥協、スランプに陥るときもありますが、少しずつ前へ進んでいます。
もうインタビューはありませんが、これを自問することで自分をリフレッシュしようと思います。
- 日々なにをしていますか?
- どうしてその道を選んだのですか?
- それで一番うれしいことはなんですか?
- それで一番つらいことはなんですか?
- 第二の人生で目指しているものは何ですか?
シンプルで本質的な問いには大きな力があります。
1つの問いで100の自問を呼び起こすトリガーになるような問いを見つけていこうと思います。
以上
参考図書:(Amazon)