他の分野からアイディアのヒントを得る、事例と方法

他の分野で実績のある商品、ヒットしている商品からヒントをもらって、自分たちの商品の課題解決につながることがよくあります。
私が関わった事例を少し紹介したあとで、アイディア出しのバイブル的存在であるジェームズWヤング「アイディアの作り方」の概要を紹介します。

事例いろいろ

漠然と「何かいいアイディアないか?」と考える仕事はそうそうないですよね。
事業目的があって、戦略、計画、企画、設計等々、さまざま段階で課題があります。
対競合の商品戦略、損益目標に適う商品化計画、顧客に刺さる商品企画、QCD(品質コスト日程)最適な設計などが求められ、それに応えるアイディアが必要になります。
対象を絞って、デジタルカメラ(デジカメ)の商品化の中で、デジタルカメラ以外のところからヒントを得た事例を拾ってみました。

デジタルカメラSDK

全身プリクラブームが起きて全国に撮影ボックスが並んだとき、あの箱の中に、市販の業務用デジタルカメラDS-300が組み込まれていたのをご存知でしょうか。

PCと通信ケーブルで接続したカメラを、PCのプリクラアプリから制御して写真を撮るのですが、アプリ開発者が機器を制御するには、機器の通信仕様書を理解して、PCからコマンドやデータ通信をするプログラムを作る必要があり、敷居が高い問題がありました。見込み客からのカメラへの関心は高くて資料請求はあるのですが、すぐには撮影制御で使われる事例につながりませんでした。

PCの世界ではサードベンダーのWindowsアプリ開発を促進するためにMicrosoftがSDK(OSの機能を簡単に呼び出せるようにするツール)を提供していました。それをモデルにして、私もカメラ用SDKを作ったところ、複数のベンダーから引き合いが来始めて翌年には全身プリクラに採用され一気に数が出ました。
当時、メガピクセルが撮れてSDKがあるカメラは他になく、想定外のロングランになりました。
使ってもらうには開発者の敷居を下げる必要があることが参考になりました。

縦型カメラとクレードル

デジカメ市場が立ち上がって間もなくメガピクセル(100万画素越え)で初のコンシューマモデル FinePix 700 は「縦型」デザインが注目を浴びました。
富士フイルムのデジカメといえば縦型高性能モデルというイメージをつくるヒット作になり、当時の業界シェアを一位に押し上げました。機能性能も満載でしたがデザインインパクトは大きく、これを真似た海外製品がいくつも出るほどでした。

富士フイルム旧製品ページより

カメラの仕組みが構造を制約するのでデジカメはどれも似たような見た目になります。スマホがどれも同じような形になるのも当然です。
商品企画リーダーだったKさんは、デジカメの機能性能が新しい時代に入ったことをスペック表ではなく誰にも分かりやすく訴える方法はないか考え、当時の新しいモノ好きが買う他のデジタルガジェットに注目。音楽プレーヤ、録音機、ビデオカム、PDA等々をいじり倒して、縦型のコンセプトを作りました。

WikiPediaの記事より引用

カメラの顔をしていながらパトローネを装填するフィルムカメラではありえない形状は、一目でデジタルカメラであることがわかり、飲食店などで遠目にテーブルに置かれても目立ちました。狙いは大成功でした。
同様にして後継モデルでクレードルを導入、これも縦型形状との相性がよく、簡単にセットできて転倒しづらく、充電とPC接続が同時にできて後述のネットサービスへと繋がりました。
ある分野では特別な事ではなくても、別の分野に持ち込むと新しい意味をもつことがあります。

FinePix Internetサービス

フィルムからデジカメへの流れが決定的になり、撮った後の画像データでどう楽しむのか、の競争が始まっていました。2001年春には新型デジカメと同時に、自社のデジカメユーザーを対象にした新しいインターネットサービス”Picture The Future”をローンチしました。

当時の製品同梱パンフレットより引用

クレードルにカメラを挿すとPCのViewerソフトが自動起動し、Viewerソフトを介してカメラの画像データとインターネットサービスをつなぎ、ネットアルバムへの公開や、ネットプリント注文ができました。
当時としては競合を一歩リードする画期的な一体型サービスでした。
これもKさんがWeb上の画像サービスを調べていて、画像サイトを表示するブラウザの画面が、パソコンのViewerアプリの画面に似ていることにヒントを得て、Viewer側にインターネット機能を埋め込むアイディアになりました。(当時本人から聞いた私の記憶違いでなければ)
聞くところによるとAirbnb創業者のブライアン・チェスキーは、iTunes/iPodでユーザーがたった3回クリックするだけで音楽が楽しめる操作性の良さにインスピレーションを得て、Airbnbでもたった3回のクリックで宿泊先を予約できる操作性に拘ったそうです。実は “Picture The Future”も画像一覧からどのサービスへも3回のクリックだけで画像がアップロードできる簡単さがウリだったのも面白い偶然ですね。(iTunesがネットストアの音楽データとiPodを繋いだのはこの2年後でした。)

ちなみに・・・このとき私はカメラとサーバーをつなぐインターフェース設計・開発を担当していたのですが、2001年の時点でこれが実現できていたにも関わらず、なぜ我々は20年後のネットサービス時代にメジャープレーヤーになり損ねたのか。デジタル敗戦の懺悔は別の機会にしたいと思います。

DVDアルバム~Everplay規格

撮った画像から保存用と鑑賞用を兼ね備えたDVDアルバムを作成するアプリソフトを作り、2002頃からデジカメに同梱しました。そのDVDは家庭のプレーヤーで見られるだけでなく、写真店にそれを持ち込んで焼き増しプリント注文もできる仕掛けがありました。
それまでのリバーサルフィルムが「観る」ための媒体とプリント用の原版を兼ねている優れた点を、デジタル画像の世界で代替できるものはないか?と探して考えた結果でした。
のちにCD-RやDVD-Rでの写真データの再生互換性を確保する共通規格”EVERPLAY”(KODAK、FUJIFILM、KONICA)策定にも貢献しています。
なお、アプリユーザーには好評でしたが、やがてクラウドの到来で役割を終え、今ではネットが保存と鑑賞のメディアになっています。取得した特許もありましたがもう切れてますね。

その他コンデジの機能色々

細かい機能面でも他から参考にしたものは色々ありました。
フラッシュや音を止めたい場所では携帯電話のような長押しで簡単に複数設定を一度に切り替えるデジカメ版「マナーモード」、テープのビデオカメラをイメージしたつなぎ撮り動画モード、タッチパネルのメダルゲームのスワイプ操作を真似したフォルダ整理のUI等々。
カメラからスマホへ画像転送する最初の製品では双方で同時に転送ボタンを押すだけの画像送受機能が簡単で良いと好評でした。当時流行っていたバンプ(二人が同時にスマホを振ることで相手を特定して情報交換するアプリ)や無線ルーター(接続設定で同時にボタンを押す)からヒントを得ています。

余談ですが、駅メロをぜひセルフタイマーへ応用したかったですね。⇒駅メロについて
10秒の印象的なメロディーは、あとどれくらいで電車のドアが閉まるのが分かるので、駅では皆さん閉まるタイミングに上手に合わせて駆け込んでいます。いつシャッターが降りるのか分かりづらいセルフタイマー問題にうってつけだと思って温めていたのですが、デジカメが無線搭載しはじめた(スマホからシャッターが切れる)ので機を逃しました。

共通していること

共通点として、類似性のある他の分野の商品には似たような課題があり、すでに解決策を持っている場合があることです。それを探せば、周囲にヒントは溢れているかもしれません。
また、課題となっていることを専門用語で言わず、抽象的一般的な言い回しに変えてみることも有効と考えられます。たとえば、相反する要素を巧く組み合わせたもの、難しいのに誰でも出来ていること、直観的にタイミングがわかるもの、みたいな。
後述する「アイディアのつくり方」が示すように、課題に対する特殊知識と、より一般的知識(他の分野の知恵)の組み合わせが引き出されやすくなります。

バイブル本

「アイディアのつくり方」ジェームズWヤング(CCCメディアハウス)(Amazon)
仕事でアイディア出しが必要な人は読んでおいて損はないと思います。職場で何人も(ある時は無理やり)貸して読ませたものでしたが、「目からウロコ」な人が多かった様です。

本の帯「60分で読めるけれど一生あなたを離さない本」
著者はアメリカ最大の広告代理店で活躍した人物(1973年没)で、驚くことに半世紀前に書かれたのに、研究者からマーケッターまでいろんな人が影響を受けています。

「アイディアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない。」

この本が最終的に言っていることは、当たり前に思える、たったこれだけなのですが、それを具体化するために以下のようにも述べています。イノベーションでも「組合わせ」の重要性はいろんなところで言われる(シュンペーターなど)がこの本の影響も大きいのかも。

「どんな技術を習得する場合にも、
 学ぶべき大切なことはまず第一に原理であり第二に方法である。
 これはアイデアを作り出す技術についても同じことである。」

「広告のアイデアは、
 製品と消費者に関する特殊知識と、
 人生とこの世の種々様々な出来事についての一般的知識との
 新しい組み合わせから生まれてくるものなのである。」

そしてそのやり方を、アイデア作成の5段階としてまとめています。(詳細割愛)

  1. 材料を集める
  2. 咀嚼すること(1つ1つ取り上げ様々な角度から眺めたりジグソーパズルのように並べ変えてみる)
  3. 消化すること(いったん意識の外へ追いやるが常に考え続けている状態をつくる)
  4. 思いつく (1~3で根負けするとここに到達しないと言っている)
  5. アイデアを具体化し展開する

自らの経験から導いた公式を惜しげもなく公表するのは、訓練は可能だが楽して出来る甘い方法はないからだと述べています。どうせ、簡単には真似なんてできないぞ、ということですね。

  • 説明すればごく簡単なのでこれを聞いたところで実際に信用する人は少ない。
  • 説明は簡単至極だが実際に実行するのは知的重労働で誰でも簡単にはいかない。

ただの組合わせではなく「特殊知識」と「一般的知識」との新しい組合わせ、という洞察は大いに参考にすべきだと思います。
ユニークな部分と多くの人と共通部分をもつ新しい組み合わせが良いアイデアとも取れますし、特殊知識の課題を解くヒントは一般的知識にある、ということかもしれません。

広告の分野での優れたアイデアマンのノウハウの一般化なのに、様々な分野の研究者たちも絶賛するのは、シンプルながら本質を突いているからでしょう。
引出しが豊富、というのは(1)では使い物にならず(3) まで到達していることが必要で、日々学んだことがその状態に至っていることを目指そうと思います。

以上

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